東京高等裁判所 昭和48年(て)849号 決定 1973年10月16日
申立人(被告人) 唐沢宣雄 外四名
主文
本件各申立を却下する。
理由
本件各申立の理由は弁護人保持清ほか三名作成名義の忌避申立書に記載されたとおりであるから、ここにこれを引用する。
よつて本件記録、本案記録、当裁判所の事実取調の結果を調査検討してみるのに、被告人らは同人らに対する兇器準備集合等各被告事件について、昭和四七年七月一〇日東京地方裁判所において有罪の判決をうけこれに対し控訴申立をし、当庁第七刑事部で審理をうけていること、その控訴趣意の中被告人らの控訴趣意第一点、弁護人らの控訴趣意各論一(とくに(一)、(二))は、原審である東京地方裁判所は被告人らおよび弁護人らのいわゆる一〇・一一月事件関係の被告人ら全員の弁論を併合することを求めたのにこれを容れず分割されたまま審理判決をする等被告人らの防禦権を不当に制限し、重大な訴訟手続上の法令違反をしたものであるとの主張であること、東京地方裁判所の裁判官会議がいわゆる一〇・一一月事件関係の被告人らの各被告事件を幾つかのグループに分けて同裁判所の裁判部に配点することを決議しこれを実施したこと、右決議にもとずき同裁判所刑事第一六部に配点された被告人向山和光ほか一〇名に対する兇器準備集合等被告事件(いわゆる一〇・二一事件五グループ)、被告人粟山美知子ほか一〇名に対する兇器準備集合等被告事件(いわゆる一〇・二一事件六グループ)につき、浦辺衛裁判官が裁判長として審理を担当することとなつたが、その間右事件関係の被告人らおよび弁護人らから、いわゆる一〇・一一月事件関係の各被告事件は全部単一の裁判部に併合して審理すべきであるとの弁論の併合の申入れがされたこと、これに対し裁判長である浦辺裁判官は東京地方裁判所の裁判官会議がいわゆる一〇・一一月事件関係の各被告事件をグループに分けて各裁判部に配点するに至つた経過を明らかにし、さらに前記事件の配点をうけた裁判部としては独自の立場において弁論の併合分離をすることができることは刑訴法に規定されてあるとおりであるから、前記の事件の配点状況をもつて確固不動のものとは考えずなお訴訟関係人の意見を十分にきいて検討を加える等被告人らの防禦権の保護について十分留意することを表明する等被告人らの前記申入れに対し審理の推移に応じ弾力的検討を加えて臨んでいく態度で審理に当つていたこと、同裁判官は前記事件の審理の途中で担当を離れ、終局裁判には関与していないことが認められる。
さて浦辺裁判官が前記の裁判官会議の構成員として、いわゆる一〇・一一月事件関係の案件の配点方法に関する決議に関与したとしても、本件とは一般的抽象的に関連する司法行政事務に関与しているにすぎず、本件について具体的な審理行為をしたものではなく、また被告人らの前記弁論併合申入れにおいて、本件がその一対象とされてはいるが、それ以上に浦辺裁判官が本件の審理を担当したわけでもないのであるから、同裁判官について刑訴法二〇条七号の前審の裁判ないしその基礎となつた取調に関与したものとはいえないし、また現に担当した前記事件における同裁判官の弾力的な審理態度、ことにそれらの終局判決に何ら関与していないことをも合わせて考えると、同裁判官が本件について原審の終局裁判に至るまでの全審理経過を検討して被告人らおよび弁護人らの前記の各控訴趣意の当否を判断するに当つて、所論のような偏見をもつて臨むとは軽々に断ぜられないのである。
従って、浦辺裁判官については刑訴法二〇条七号の除斥事由はないし、また偏見をもつて不公平な裁判をする虞があるともいえないから、論旨はすべて理由がない。
よつて刑訴法二三条一項により本件各申立を却下することとし、主文のとおり決定する。